白内障手術で用いる単焦点眼内レンズについて
目次
白内障とその治療に用いる眼内レンズ
白内障は加齢や紫外線などの原因によって目の水晶体という部分が濁り、光が目の奥に届かなくなってしまうために視力が低下してしまう病気です。加齢がリスクとなるため、誰しもいつかは発症する可能性が高い病気です。
特に、80歳以上の方はほぼ全員白内障があるとされています。根本的な治療は、濁った水晶体を取り除く手術しかありません。特に、視力の低下によって日常生活に支障をきたしている方は手術を受けることが望ましいです。
白内障の手術では、濁ってしまった水晶体の代わりに「眼内レンズ」という人工のレンズを入れるのですが、これには大きく2つの種類があります。
1つは「単焦点眼内レンズ」と呼ばれるもので、もう1つは「多焦点眼内レンズ」と呼ばれるものです。
このどちらを選ぶかで手術後の見え方が大きく変わります。この記事では単焦点眼内レンズについて解説します。
単焦点眼内レンズの特徴
単焦点眼内レンズはその名の通り、ピント(焦点)が1つ(単)に合うように作られています。そのため、そのピントの位置をどこに合わせるかが重要となります。
例えば、遠くにピントが合うような単焦点眼内レンズを選べば、遠くを見る際には物が鮮明に見えます。しかし、そのピントの位置からズレればズレるほど、ピントは合いづらくなります。
よって、近くを見る時にはピントが合わず、ボヤけて見えてしまいます。このボヤけは眼鏡を使えば解消しますから、遠くにピントを合わせた患者さんは近く用の眼鏡、いわゆる老眼鏡が必要になることが多いです。
反対に、近くにピントが合うような単焦点眼内レンズを選べば、近くを見る際には物が鮮明に見えますが、遠くを見る際は遠く用の眼鏡が必要になることが多いです。
このように単焦点眼内レンズはピントの合う位置を選ぶことで、ご自身の生活スタイルにあった見え方にすることができます。しかし、眼鏡がないと生活する上で不便になることがあります。眼鏡をどうしても使いたくない方は多焦点眼内レンズの選択を考えると良いでしょう。
単焦点眼内レンズが向いている人
単焦点眼内レンズはピントを合わせた距離の範囲内でクリアな視野が得られ、物を鮮明に見ることができます。そのため、単焦点眼内レンズと比較される多焦点眼内レンズはピントの合う距離は広くなりますが、ハローやグレアなどの不快な自覚症状が出てしまう方がいますので、単焦点眼内レンズの方が見え方の質がよいとされています。
見え方の質が関わる仕事や趣味をされる方、具体的には絵を描いたり、編み物をしたりする方、歯科医師や美容師などに従事している方は単焦点眼内レンズの見え方が合うことが多いと予想されます。
どのような単焦点眼内レンズを選ぶべきか
単焦点眼内レンズはピントの合う位置を大まかに選ぶことができます。そのため、どのような生活を送るのかを考えて、ピントの合う位置を選びましょう。
車の運転の際に眼鏡を使いたくなければ、遠くにピントが合う単焦点眼内レンズを選ぶ必要があります。逆に、車などは運転しないし、基本的には家の中で1日過ごす。そういった患者さんには近く、あるいは2-3mの位置にピントの合う単焦点眼内レンズを選ぶことがあります。
このように、患者さんによって生活スタイルは大きく異なるため、主治医とよく相談することをおすすめします。
単焦点眼内レンズで注意すること
単焦点眼内レンズで注意すべきことは2つあります。
- 「眼鏡を使うと思わなかった」という誤解
- 主治医によく相談せずに言われた通りのレンズを選ぶ
1. 「眼鏡を使うと思わなかった」という誤解
1つ目は「眼鏡を使うと思わなかった」という誤解です。単焦点眼内レンズを選んだ患者さんの中には、手術前に眼鏡の必要性を説明したにも関わらず、「眼鏡が必要だと思わなかった」という方が一定数いらっしゃいます。
これは白内障手術で元通り見えるようになるというイメージが強いため、まさか手術後も眼鏡を使うとは思っていないなどが理由として考えられます。
2. 主治医によく相談せずに言われた通りのレンズを選ぶ
2つ目は主治医に言われた通りのレンズを選ぶことです。特に、「手術後は趣味の運転を再開したい」「近くを見る時は眼鏡を使いたくない」など、手術後の見え方の希望がある場合は必ず主治医に伝え、主治医から提案された手術後の見え方と比較し、しっかりと相談しましょう。
また、眼科医のイメージする「近く・遠く」と、患者さんがイメージする「近く・遠く」は大きく異なることがあります。具体的にどのくらいの距離の物を眼鏡無しで見たいのかどうかを伝えるようにしましょう。
これら2つのことに注意することで、患者さんに合った単焦点眼内レンズを選択することができるようになります。
単焦点眼内レンズの価格
単焦点眼内レンズのほとんどのレンズは保険適応の眼内レンズです。そのため、保険適応の単焦点眼内レンズを選んだ際には追加のレンズ代はかかりません。
また、単焦点眼内レンズには、乱視矯正が可能な乱視用眼内レンズ(トーリックレンズ)もあります。この乱視用眼内レンズであっても追加費用はかかりません。
さいごに
多焦点眼内レンズが登場して以降、「単焦点眼内レンズは多焦点眼内レンズよりも劣る」と思っている方が少なくありません。確かに、眼鏡が必要になる場合が多いですが、見え方の質に関しては単焦点眼内レンズの方が優れており、生活スタイルによっては単焦点眼内レンズの方が合う方もいます。
最終的に単焦点眼内レンズか、多焦点眼内レンズかを選ぶのは患者さんです。主治医によく相談し、理想の見え方に近付けるような眼内レンズ選びをしていただければと思います。